「ねえねえ最近さあ、会社のエレベーターで20Fとか行くヤツの方に、ネコがボタン押してるみたいなエレベータあるよね。」
と言い出した。
意味がわからない。
床板にアンモナイトの化石がいるエレベーターなら知ってる。あと、恐らくイライラしがちな人が苛ついて押ボタンにボールペンを突き立てまくった結果凹みが出来てしまったエレベーターも知ってる。閉じるボタンの色が剥げかけてるエレベーターが幾つかあるのも知ってる。でも、ネコは知らん。
意味がわからないという顔を多分おもいっきりしていたからだろう、
「ほんとなんだって!押すボタンの周りがさあ、毛だらけでもっふもふなんだよ!ネコっぽい毛なんだよ!」
と畳み掛けてきた。
だが全く意味がわからない。
わからないものはわからない。
ビルの清掃員の中にあの猫村さんでも混じってきたのかと一瞬考えた。それは会いたい、マジで会いたい。なんなら出待ち追っかけをいとわないぐらいだ。ラブ、猫村さん。
いやしかし一方で、あの猫村さんというのは仕事クオリティが大変高い方でもいらっしゃると認識している。その猫村さんが、いくら自分がネコとはいえ清掃対象にそんなモフモフとネコ毛を残していくなどなさるだろうか。いや、ない。猫村さん出現ビルであるという選択肢は、無い。
とまあここらあたりで思考は止まり、このことはすっかり忘れていた中で先週の金曜日、突然私は遭遇した。エレベーターのボタン周辺が毛だらけなのだ。モフモフとまでは行かないが、とにかく毛にあふれている。モヘアの手袋でちょっと触った程度の範囲ではない。全体的に、毛。そしてたしかにその繊維感がネコの毛っぽい。
マジだ、夫の言っていることは本当だった。ネコエレベーター、ほんとにあった……っていうかこれまじ意味不明なんだけどなんだこれ?!明らかに毛が大量に……全面的に……どちらかと言えば一瞬キモい。毛だらけ過ぎるにも程がある!どうしてこんなことに?!
と思って数時間後、また別のエレベーターに乗ろうとしたら、中に清掃員の方がいた。正にエレベーターの押ボタンあたりを拭き拭きしていて、私と入れ替わるように出て行った。そしてそのエレベーターの押ボタンは毛だらけだった。
これか。
犯人はおまえか。
お前がネコか。
いや、でも普通に人にしか見えないぞ?
そんな中私は、そのエレベーターには自分しか乗っていなかったのをいいことにボタン周辺をジロジロ眺めた。とりあえず「押ボタン周辺は掃除したてと分かるような湿り具合」であることを確認する。そして思ったのだった。
「今の清掃員の雑巾は抜け毛体質すぎる」
つまりネコ毛あふれるエレベーターが出現していたのでは全くなく、「ネコっぽい繊維をはらんだ抜け毛体質の雑巾で掃除されたエレベーター」があるということなのだった。
ただ判断つかないのは「抜け毛体質が酷い特定の雑巾があり、それによる掃除にあたってしまったエレベーターがもれなくネコネコしい感じになる」のか、「雑巾は基本的に抜け毛体質のものが使われており、水拭き段階では必ずネコネコしくなる。ただし掃除した後に乾拭きしない清掃員にあたるとネコネコしいエレベーターが出来上がってしまう」のかの判別はまだついていないのだった。
さらに言えば「エレベーター自身が抜け毛体質」という可能性も否めないのである。なにせまさに今冬毛から夏毛に切り替わる季節だからだ。
あとはまあ原子生命繊維が、エレベーターを通じて学園……じゃなかった勤務先のビルを支配しようとしている(byキルラキル)というのもあるかもしれない。
はてさて、私が遭遇したあの清掃員はどうだったのか。雑巾運が悪い人だったのか、それとも乾拭きサボり員か。現時点では判別はついていない。
そして今日のところはそのネコネコしいエレベーターには遭遇していない。
続報は、無い。