関東が入梅したという。
そして今日、勤務先が入居しているビル敷地内でヒキガエルを見た。
港区赤坂というド都会だが、敷地内緑化はこんな巨大なカエルの棲息まで受け入れるのかとちょっとした感動を覚える。
と同時に、カエルといえばと想い出すエピソードがある。
ガーコ&ケロタンシリーズという、アヒルとカエルのキャラクターグッズがある。
とてもかわいらしい。
さてある日私の父は、東急ハンズで「ケロタンが小さいカエルを抱いている」貯金箱を発見した。
どうやら父は、その貯金箱に大層疑問を持ったようで、店頭で棚の前に立ち尽くしてだいぶ悩んでいたらしい。
今ならスマホで写真をとって「これなんだけどさ」と送れば済むものだが、いまから20年ほど前のことだ、そんなことはできない。そんなわけで父は、家族と悩みを共有するべくその「ケロタンが小さいカエルを抱いている貯金箱」を購入したのだった。
そして数時間後、学校から帰って早々の私を、待ち構えていたかのように捕まえて、ものすごい勢いで言った。
「これさあ、カエルが赤ちゃんカエルを抱いているんだと思う? それともカエルがカエルのぬいぐるみを抱いてるんだと思う? いやあ、ハンズで見つけて気になっちゃってさあ、しばらく前で悩んでたんだけど、わからないから買ってきたよ。」
あまりの勢いに私は一瞬引いた。
そもそもそんなに娘を待ち構えるほど悩むほどのことなのか、父。
カエルのキャラクターグッズの前で長時間真剣に悩むおやじって相当怪しくはないのか。
周りはほとんど若い女の子だったに違いない。
その中で、微動だにせずカエルの前で停止しているおっさん。
ああ、もしかしたらブツブツ独り言を言っていたかもしれない。
いやきっと言っていたに違いない、父だし。
想像するだにあやしい。
この上なくあやしい。
しかも、普通のおっさんならキャラクターグッズを「そそくさと恥ずかしそうに買う」のだろうが、悩みを一家で共有するために購入せんとする父は、そんな神経は働いていなかっただろう。むしろ「早くこの悩みを共有したい」とニコニコといそいそとレジに向かったに違いない。
ありえん。
くらくらしてきた。
しかし父の疑問は共有せねばならない。
家族平和のためだ。
そして私は実物を見た。
ケロタンはかわいい。
私も好きだ。
確かに大きさ比率的に、ケロタンが抱える小さなカエルは、ぬいぐるみとも、赤ちゃんとも言えるような大きさだ。
「わかんないだろう?」考えこんでいる風の娘を目の前に父は得意げだ。
そして、私は逡巡しながら言ったのだった。
「あのさ、カエルの赤ちゃんはおたまじゃくしだよ」
凍りついた父、当時50代後半。
結論は一瞬だった。
これはぬいぐるみを抱いているのである。